まりかど雑多忘我録

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見たり読んだりしたことの感想を、自分の脳を整理するために書いてます。

青のフラッグ感想 その3 トーマの感情

青のフラッグ感想3回目です。
 

まあ…感想と言っていいのかわからないような文章ですが…。自分の真っ暗な空間の中にあるひとつひとつの感覚を拾って文章を書いております…。

 

1回目、2回目はこちら↓

青のフラッグ感想 その1 二葉の選択 - まりかど雑多忘我録

青のフラッグ感想 その2 太一の価値観 - まりかど雑多忘我録

 

今回は大好きなトーマについて考えたいと思います。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

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私は「青のフラッグ」、連載が始まったときからジャンプラでリアタイで読んでたんですけど、もう毎回毎回トーマが切なくてですね…。血反吐を吐く思いでした。

 

それだけに、ラストはもう涙、涙…。
トーマ良かったね!トーマの気持ちが報われて本当に良かった…
そうなってほしかったけど、そうなると思わなかったからもう太一胴上げしたい。

 

本編中で、はっきりとトーマのモノローグとわかる箇所は、トーマが自身の過去をふりかえる話しかないので、トーマが心の中で何を思っているのかはほとんどわからないんですよね。

 

トーマをわかろうとしたら、会話の中とか、表情からうかがうしかない。

 

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最終回を迎えてから、もう一度1巻から読むと、作中のモノローグは全てトーマのもののだったんじゃないかと思えてくるんですよ…。二周目はもう、トーマが太一を追っているのがはっきりわかって、さらにしんどくなりました…。
この一連の感想をまとめるのに何周もしてるんですけど、ラスト知ってて良かった…ラストがわかってるから読めるな…。

 

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何度か読んで思うんですが、トーマは天然のタラシです。
さらっと心にズキュンなこと言うんですよねー、さわやかに!
そして、本人は結構言ったことを覚えてないという…。
モテるはずだよ、トーマ…。


たぶん、トーマには、タイちゃんと他の人、という区分しかないように思える…。
全員に対してフラットだから、女子も男子も魅かれるんじゃないかなー。
逆に言うと、トーマはタイちゃん以外興味ないのかもしれない(笑)

 

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トーマは相手に対して期待してないんですよね。
身も蓋もない言い方ですが、他人に対して「アレをやってほしい」「こうしてくれるといいのにな」っていうのがないんだと思うんです。
だから、ほぼ相手を受け入れる。だから、他の人はトーマといて楽しいんだと思うんです。マミちゃんがトーマをスキになったのも、この受け入れ姿勢に男女の差がなかったからなんじゃないでしょうか。

 

明るくて人望もあって、いつも隣に誰かいるトーマが、実際のところ、内に抱えてためこんでいる、ということに気づいているのがタイちゃんなのがねー…。
あ、シンゴも何か見えてそうではあったね。シンゴはなんとなく、わかっていたのかもしれない。

 

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トーマの感情の根底にいる人が二人いて、一人は誠也兄、もう一人は太一。

 

トーマはお兄ちゃんがスキなんですよね。
弁護士になる夢を応援している。

 

でも、両親が亡くなって、大好きな誠也兄の役に立ちたいと思っても、トーマは何もできなかった。
トーマのその気持ちは、「ごめんなさい」という言葉とセットだった。
お前はできないから何もしなくていいと言われ、誠也兄を助けてあげられるのは、自分じゃなくてアキさんだった。

 

直接的な原因は触れられてないけど、誠也兄が弁護士をあきらめたのは、自分のためだとトーマは思ってるんじゃないかな。
トーマが野球の強豪校に行かずに地元の高校を選んだのは、そういう負い目があったからなのかもしれない。
誠也兄の六法の本をトーマがずっと持っているのは、考えすぎかもしれないけど、自分への枷のつもりなのかな…。

 

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トーマの気持ちが爆発したのが家出のとき。
トーマにとって誠也兄は兄であって親ではない、とか、誠也兄はトーマよりアキさんを選んだ、とか、両親を亡くした喪失感が、このとき改めてトーマの胸に迫ったんじゃないかと思うんですよ。

 

そんなときに、太一は誠也兄を倒して、一緒に逃げ出してくれた。
ずっと手をつないでいてくれた。
そのときから、ずっとトーマは太一が大好きなんだよね…。
それは、友達としての感情以外に恋のような感情はもちろん、家族の情愛も含めてなんだろうなと思うんです。

 

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トーマは太一より早熟で、「手をつなぐのは女子みたい」と男女の性差を感じています。トーマからしてみると「手をつなぐのは女子みたいで恥ずかしい」という意識だったと思うんです。
だとすると、太一と手をつないで誠也兄から逃げたときに感じた感情を、その後も太一が手をずっと握りしめていてくれたことで、トーマは太一に肯定されたように思ったんじゃないですかね…。

 

でも、トーマの苦しみもここから始まって、トーマにとって太一が親友だったから、自分のセクシャリティも含めた恋愛の相談を太一にできなかった。
一番相談したい人が、一番相談できない人になってしまった。
本当のことを打ち明けるときに「ごめん」と言うしかない。
自分が太一のそばにいると、太一を傷つける。

 

 

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トーマは、自分の存在が、大事な人たちの重荷になってると思っているんですよね。
自分には何もできない、なりたい自分もないというのは、大事な人たちへの無力感からきている。トーマ…_:(´ཀ`」∠):_ 

 

トーマの「相手への許容」が、自分に期待するものが何もないから他人にもない、というところから来ているのだとしたら、しんどいな…(涙)
トーマ、中学生くらいですよ…。

 

トーマは脊髄反射的な思考をする人だと私は思ってて、言ったことを覚えてないのはそういうことだと思ったから。
そのトーマが、スキになった理由を考える対象が、野球と太一だった。
考えなきゃいけなかった。誰かへの言い訳のために。
自分があきらめるために。
誰かをスキになるという優しくて嬉しい感情が、謝らなければならないものになっているなんて…

  

タイちゃんへの思いを振り払うために、スキでもない他の人と付き合うというのがないのがトーマの誠実で一途なところだ…。まあ、就職先を遠いところにしたのは、タイちゃんを忘れるためだったんじゃないかと思いますが…。

 

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そういうトーマを変えたのが、二葉なんですよね。

 

トーマは自分じゃない別の誰かになりたかった。
太一の理想の人になりたかった。


「あなたの中の私の形が 
 私の思う理想の姿でありますようにと
 願いながら 
 恐れながら」

 

マミちゃんのモノローグはまんまトーマのモノローグで、太一を傷つけない誰かになりたかった。
思いもしなかったそのことに気づかせてくれたのが二葉だった。

 

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文化祭での一連の流れで、トーマは何度目かの失恋をしてるんですよ。
(何度もひどい…_:(´ཀ`」∠):_ )
太一に問いかけてから笑いかけて立ち去るまでの間、トーマは失恋した。

 

一旦太一の手を見るんですが、太一が緊張してるのに気づくんですよね。
告白して受け入れてくれる、あるいは、告白した自分を許してくれるような感じではない、きっとわかってもらえないと思ったんじゃないでしょうか。
あれは失恋だと思うんですよね…。

 

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トーマはどうしてマミちゃんにカミングアウトしたんでしょうね。

 

「(恋人としてスキになってくれなくても、トーマにその気持ちがないのならしょうがない。なら、男女だけど)友達になれない?(男女で)友達になるのは気持ち悪い?」

 

その問いが、まんまトーマだからだろうと思うんですよ。
いわゆる「普通」の側から見たら気持ち悪いかどうかで悩んでる「こっち側」だから。

 

私は、もし普段のトーマであれば、カミングアウトしなかったんじゃないかと思うんですよね…。
でも、この時点でのトーマは失意の中にいるので、そこに同じこっち側の人から「わかってくれ」と言われたら、答えてしまうと思うんですよね。
なんかいろいろタイミングが悪い…。

 

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最悪な形でのカミングアウトの後の駅での告白も、もうトーマの中では失恋だよね。

 

というか、そもそもトーマの中では失恋以外の未来がない。
二葉と太一がつきあってるのはトーマもわかってることだし、トーマの中では、友達として太一の隣に居続けてもいいという許しをもらう未来しかない。

 

みんなで幸せになる、その「みんな」の中に自分も太一もいる。
そのためには、太一に告白しちゃダメなんですよ。
でも、その未来もなくなってしまった。

 

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「トーマの本当の姿」を、実際誰が見ていたのかというと、二葉とマミちゃんだと思うんですよ。

 

前回の太一の回でも書きましたが、マミちゃんがあの二人はいいなと思うくらい、ケンスケやシンゴたちといるときより、トーマが自然体に見えたんだと思います。


あの入院のときのトーマはいいですよね…。
タイちゃんに対する甘えとか独占欲とか見えて。
太一とアキさんが話していると割って入って、太一にゲーム機の設定直して~っておねだり(?)してるし、太一とシンゴが話してると割って入るように話しかけてるし(笑)スキなんですよねー、この場面。素が見えて。

 

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次にトーマが素を出したのが、二葉とのケンカのシーンです。
このケンカのシーンはいいですね!
こう…もう何もガードがないトーマという感じで、素を二葉にぶつけてるんですよねー。

 

「タイちゃんだって二葉のこと…(云々)…オレの気持ちも知らないでさ」

 

最高オブ最高のシーンですよ。トーマが本当に言いたかったことですよ。

 

「オレの気持ちも知らないでさ」

 

いい台詞だ…。

 

その台詞のあとの「二葉は家族も親友も恋人も持ってて恵まれてるくせに不幸ぶるな」、これも、二葉に言ってますけど、本当はタイちゃんにも言いたいことですよね…。
いや、トーマの周りにいる、たくさんの人にも言いたいのかもしれない。
オレにどんな夢見てんだと。

 

もはや何も持ってないトーマに、二葉は「大事な人たちみんなで幸せになる」という自分の願いをトーマに伝えます。

 

これはトーマが、太一に許してほしかった未来なんですよ。
トーマの告白で一番傷ついたであろう二葉が、トーマと同じ願いを持って、トーマに向き合った。
二葉の感想回でも書きましたが、これがトーマを救ったんだと思うんです。
トーマが前を向いて歩くための大きな救いになったと思います。

 

トーマが学校に来なくなった後に、トーマに会おうと最初に言ったのは二葉だし、二葉…二葉がそう言わなかったら、ラストの二人は存在しないよ…。二葉…(涙)

 

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太一が追いかけてきても、トーマには嬉しいって感情はなかったんだろうと思う。引導を渡されるんだと思ってたと思う。
でも、トーマの、あの日最後まで持ってた小さな願いは太一に受け入れられた。
ふった相手とふられた相手、一緒にいるのはキツイとわかっていながら、その関係を太一もトーマも受け入れた。

 

トーマはどうして受け入れたんだろうね。
どうしたって離れられない太一への思いを、あきらめることをあきらめたんだろうか。

 

「割りに合わねえな」と思いながら、自分が選んだことだからと思いながら、
遠い場所から太一を思ってたのかな。

 

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…とかなんとか、トーマ、太一のそばに戻ってきてんじゃん!ていうね…。
遠距離とか関係ないじゃん。
二葉と太一があれだけ遠距離恋愛を心配してたのに、トーマが逆転満塁サヨナラホームラン打ってんじゃん。

 

この逆転満塁ホームランを打つまでの間、変化したのは太一と二葉の方で、トーマはずっと変わらず、太一のそばにいつづけたんだろうね…。
トーマの一途さよ…(´;ω;`)がんばったね…

 

むしろ、トーマにとっては、太一がトーマを選んだときからがまたツラかったかもしれない。

 

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トーマにとって、太一への感情は「ごめん」が伴うもので、太一が「普通」じゃない選択をしたのは自分のせいだと思ったかもしれない。
トーマは二葉に「スキって言われたんだから、つきあってるんだから自信持てよ」と言ったけど、同じ境遇になって初めて不安に陥ったと思うんです。

 

なんで?どうして?と他人から言われるのは太一なんですよね。
トーマに向けられていた視線が、今度は太一に向けられる。太一の困難の原因は自分だと思ってしまうこともあったんじゃないかなあ。
一緒にいた次の日には、太一は異性に心変わりしてしまうかもしれなくて、自分を選んだことが間違いだったと、その口から言われるかもしれなくて。

 

 「得られた幸福を失いたくないと 次に訪れる選択を 恐れるかもしれない」

 

これはトーマだよね。
トーマは両親を失ってる。
ある日突然目の前から愛してる人がいなくなってしまうことを知ってる。
太一に対しても、一度ふられてるわけです。
太一の気持ちが自分を向いているとわかっていても、ふとした瞬間に恐くなるときがあったと思うんです。

 

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二葉の結婚式に出席したトーマが、芳名帳に書いた姓が「一ノ瀬」でした。

 

 パートナーシップ制度は、戸籍は変わらないんですよね。なので、パートナーシップ制度上での結婚であっても、トーマは正式な書類に「一ノ瀬」とは書けない。

 

結婚式での芳名帳に、正式文書ではないけどおめでたいものに、通称は書かないと思うんですよね…。
太一が欠席だから太一の分も書くとも思えない。招待状の返信で来ないとわかっているなら、あらかじめ太一の席は用意しておかないはず。

 

だからこれは、戸籍上も「一ノ瀬桃真」なんですよ!
トーマは、たぶん、太一の息子として、一ノ瀬の戸籍に入ってるんです(遺産相続を考えると、太一の兄弟として入るとは思えない)。
(まあ、同性婚もできるようになっている未来を描いたのかもしれませんが)

 

戸籍を移動するとなると、同棲するとかパートナーシップ制度の証明をもらうとか、二人でなんとかなる枠を超えて、それぞれの家族の説得もあったと思うけど、たぶん太一の強烈な意志なんだわ。

 

これは太一からのプレゼントなんだと思うんですよ。
家族も恋人も親友も失ったと思っていたトーマに、恋人と親友と、最後に自分という「家族」をプレゼントしたんです。


すごいよ、たいちいいいい!!!
泣くよトーマは…(´;ω;`)
太一、一生懸命考えたんだろうなあ…!

 

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作中で、二葉から見た太一と、トーマから見た太一、二つの視点から描かれた太一がいて。

 

二葉から見た太一、かなり美化されてると思うの…。
これは、二葉が太一を美化しているところがあるからなんじゃないかと思ったんです。恋すると、まあ、キラキラしますよね。
対して、トーマからの視点は、フツーの太一なんですよね。フツーの男の子。
トーマは太一のそのまんまがスキで、小学生の頃から変わらないタイちゃん、なんだなー。

 

トーマが太一と手をつなぐ、
というシーンは、物語において重要なキーになっています。

 

小学生のときにつないだ手を、「女子みたい」という理由でトーマが離し、トーマを救うために太一が手を差し伸べ、時を経て、トーマが太一に、互いをかばいあうような形で手をつなぐことをお願いする。そして、太一が再び手を差し伸べるラスト。

 

もう、スキであることに謝らなくていいんだよ。
自分のスキなときに、スキな人に笑いかけていいんだよ。
自由なんだよ、トーマ。


7年後のトーマの姿は描かれなかったけど、笑顔で、幸せに暮らしてるのはわかる。

 

太一とトーマは、運命の相手なんかじゃなくて、お互いが最善を考えて、お互いを選択した相手なんだよね。
この先にはどんな選択があるのかわからないけど、末永く幸せでいてくれ…。
マドレーヌずっと食べ続けてくれ…。
それだけで私は幸せだ…。

 

その4に続きます。

 

 

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休日の昼下がりに散歩したりキャッチボールしたりする一ノ瀬家のふたり。